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東京高等裁判所 昭和31年(う)725号 判決

被告人 廖号景

〔抄 録〕

論旨第一点について。

按ずるに本件において被告人が原判示小切手を郵送し又は交付した当時外国為替管理令において規定する許可を要するものと定められた行為又は取引について大蔵大臣又は通商産業大臣の許可を得るを要しないとされていたものは、同令第二十六条第一項に基く昭和二十五年六月大蔵省告示第四九六号(但し、昭和二十七年六月同省告示第千百二十一号による改正のもの)に規定されており、それ以外の前記行為又は取引は、すべて法令の規定するところに従つて所定の手続を経由することを必要とし、外国貿易の正常な発展を図り、国際収支の均衡、通貨の安定及び外貨資金の最も有効な利用を確保するために必要な外国為替、外国貿易及びその他の対外取引の規整管理を行おうとする外国為替及び外国貿易管理法(以下管理法と略称する。)及びその附属法令の定むるところに服すべきものである。本件記録に現われた関係証拠に徴せば、被告人は右管理法にいわゆる本邦内に住所を有する居住者たる外国人(合衆国又は国連の軍隊等に所属しない)であり、昭和二十四年夏頃自己の所持するカメラを李某に売却しその代金としてバンク・オブ・アメリカ、サンフランシスコ市マーケット・ニュー・モントゴメリー支店支払の額面百五十ドルの小切手を受け取りこれを密かに右銀行宛におくり後日使用の目的で右銀行に預金口座を開設し同銀行よりその預金帳及び小切手帳を受け取りその後昭和二十六年夏頃被告人の親族にあたるアメリカ合衆国在住の伝元濤において同年春来訪し日本国内で被告人が面倒を見てやつた謝礼の意味で右預金口座に五百ドルを振り込み、その後(イ)昭和二十七年暮頃東京都内日比谷三信ビル地階東洋軒において中国人ブローカー呂某より額面百ドルのトラベラースチエック三十枚合計三千ドル、(ロ)昭和二十八年四月頃都内築地三丁目華僑ビル地階食堂で中国人王某を通じて二世風の男より額面百ドルのトラベラースチエツク二十枚合計二千ドル、(ハ)その二週間位後右同一人より四回に亘り前同様のトラベラースチエツク(金額計二千百ドル)を買い受け取得し、これらを右管理法令所定の手続を経ないで前記銀行の自己の預金口座に送金した事実及び被告人は、これらの預金をもつて自己のアメリカより購入する自動車の代金の支払に充てる為にこれを引当に日本国内において前記小切手帳を使用して原判示第一乃至第四の小切手を自ら作成して、管理法所定の許可等の手続を経由しないで原判示のように交付又は郵送したことが明らかである。ところで、いわゆる居住者が前記のような経緯によつて所有する外貨預金を引当に輸入したりする貨物の代金に充当するために外国に向け送付しようとしてドル表示の小切手を作成するような場合には管理法等により大蔵大臣等の許可を要するとされている場合に適式な許可を受けたときを除いては、すべて同法に基く外国為替管理令第三条外国為替等集中規則第三条により所定の日時以内に外国為替銀行等に集中しなければならないこと勿論であり、その手続をしないでこれを勝手に国内において他に譲渡したり交付したり国外に送付したりするときは右法令に違反するものとしてその責を負担しなければならない筈のものである。又この場合において支払わるべき対価に相当する貨物の輸入について既に輸入貿易管理令第八条第一項第一号により通商産業大臣の輸入の承認がなされていても、この結論には変わりはない。何となれば、右法条による輸入(いわゆる無為替輸入)の承認は、代金の全部について決済を要しない貨物の輸入であることが条件である(その典型的なものとしては管理法関係法令の適用を受けない贈与の如きもの)から、この条件に該当するためには少くとも管理法関係法令により為替管理規整の対象とならないものについてなさるべきものであるからである。(この点については前記大蔵省告示及びその後これを改めた昭和二十九年六月大蔵省告示第八八四号参照)従つて、右輸入管理令の規定による承認があつても実質的には何らかの理由で外貨による決済を必要とするような場合においては既に前記輸入の承認を受けているとの理由によりその支払のために外貨を国外に向け送金することについて管理法関係法令の適用を受けないものとするを得ないのであつてこの送金を適法に行わんとするためには管理関係法令による手続を経由するを必要とする。それ故本件において通商産業大臣により前記輸入貿易管理令第八条第一項第一号による輸入の承認のあつたことは記録上明らかであるが、被告人のした前記ドル小切手の交付又は郵送について管理法関係法令の適用を除外される理由や右輸入貿易管理令第八条第一項各号に該当する事由或は管理法関係法令に従つて所定の手続を経由した事跡は証拠上全く発見できないのであるから、その所為は、原判決の正当に認定したように管理法第二十一条、第七十条、外国為替管理令第三条外国為替等集中規則第三条により処罰を免れないものといわなければならない。所論は、本件ドル小切手の交付及び郵送が右輸入貿易管理令第八条第一項第一号の規定に従つた、すなわち、代金の全部について決済を要しない貨物の輸入にあたるとしてその輸入の承認がある以上、居住者たる被告人が外国銀行に有するドル預金を引当に右輸入代金の支払のためにドル表示の小切手を交付又は郵送することは右輸入の承認の範囲内の適法な行為であると主張するのであるが、以上に説明したように本件は代金の全部につき決済を要しないものではなく、且つ被告人の取得した外貨(バンク・オブ・アメリカ・マーケット・ニューモントゴメリー支店に有する預金)が日本国内において居住者たる身分の下に管理法に違反して取得したものであること明らかであるから、その議論の前提において事実に副わない主張であつて、これが採用のかぎりでないこと勿論であり、この点に関する原判決の説明はその字句において右に述べたところと稍異なり不十分の点が存するけれども結局正当たるに帰し、原判決には所論のような判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の解釈適用の誤は存しないものである。論旨は理由がない。

(大塚 渡辺辰 江碕)

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